38,192円。
イヤホンに出す金額としてこの数字を見たとき、正直ちょっと震えた。カートに入れてから購入ボタンを押すまで、たぶん3日くらい迷っている。
以前は初代AirPodsを使っていた。ただその後、しばらく他メーカーのイヤホンに浮気していた時期がある。音の個性が面白かったし、値段も手頃だった。今回の買い物は、その浮気期間を経ての「純正復帰」だった。
浮気していた間に使っていたイヤホンも、決して悪い製品ではなかった。音は個性的で、価格も良心的。不満らしい不満があったわけでもない。
ただ、細かいところで少しずつ疲れていたのだと思う。ケースから出しても接続されないことがある。PCに繋いだままiPhoneで音を鳴らそうとして、設定画面を開く。外音取り込みに切り替えると、音がシャリシャリして結局外してしまう。一つひとつは数秒の出来事でも、毎日積み重なると「イヤホンって面倒だな」という気分が澱のように溜まっていく。
その澱が限界に来たタイミングで、財布の紐が緩んだ。だから今回の買い物は、音質へのアップグレードではなく、面倒さからの脱出が動機だった。
そして2ヶ月。お出かけや自宅での作業で、ほぼ毎日使い倒した。その結論を先に言ってしまう。
このイヤホン、感動する製品じゃない。生活の面倒くさいところを、こっそり消してくれる製品だった。
結論:音質で殴ってくるタイプではない
イヤホン選びって、突き詰めると2つの軸に分かれると思っている。
「音質に感動したいか」か、「生活を楽にしたいか」か。
この2つを天秤にかけたとき、AirPods Pro 3は完全に後者へ振り切っている。悪い意味ではなく、明確な設計思想として。
良かった点
- ノイズキャンセリングが「体感できるレベル」でしっかり効く
- 外音取り込みが自然すぎて、着けたまま生活が完結する
- iPhoneとの接続・切り替えでイライラする瞬間がゼロ
- 着けっぱなしでいられるので、そもそも着脱という作業が減る
気になった点
- 音質は優秀だけど、これといった個性はない
- 4万円という値段は、やっぱりハードルになる
- ノイキャンを多用する日は、バッテリー残量が気になってくる
音楽に深く没入したい人より、「お出かけや買い物、作業をスムーズにこなしたい人」向け。ここははっきりしている。この記事を読んで「自分は前者だな」と思った人は、たぶん別の選択肢のほうが幸せになれる。
ノイキャンは、電車の中で真価を発揮する
一番効果を実感したのは、移動中の電車だった。
休日に出かける途中、ノイキャンをオンにしてポッドキャストを聴いていたら、走行音や周囲の話し声がすうっと引いていって、音声だけに集中できる環境が勝手に出来上がる。完全な無音になるわけではないけれど、耳障りな低音域のノイズがかなり抑えられるので、体感としてはかなり静かになる。
カフェで作業するときも同じ。隣の席の会話やエスプレッソマシンの音が一段遠くなって、集中の立ち上がりが明らかに早くなった。今までカフェで「音がうるさいから集中できない」と感じていた時間が、そのまま作業時間に変わった感覚がある。
ただし、一度だけ本気で痛い目を見た
導入して3日目くらいの夜のこと。
出かけた帰りに、ポッドキャストを聴きながら電車に乗っていた。ノイキャンの効きが良すぎて、話の続きが気になって完全に没入していたら、気づいたときには降りるはずの駅を通過していた。しかもアナウンスすら記憶にない。
ひとつ先のホームで我に返ったときの「え、今どこ」という感覚は、たぶんこのイヤホンを使ったことがある人なら共感してもらえると思う。
結局、逆方向の電車で戻る羽目になり、10分ほど余計に電車に揺られることになった。ノイキャンの実力を、これ以上ないくらいわかりやすい形で証明された夜だった。
それ以来、自分の中でルールを作っている。降車駅が近づいたら、アナウンスを待つのではなく、自分から外音取り込みに切り替える。
この一件があってから、寝落ちしそうなくらい集中できる日ほど、逆に気を抜けないと学んだ。性能が高い道具は、使う側にも少しだけ作法を要求してくる。
機能を並べてみるとこうなる
音楽再生以外にも、地味に機能が詰まっている。
- アクティブノイズキャンセリング(ANC)
- 空間オーディオ
- 心拍センサー+ヘルスケア連携
- 補聴サポート関連の機能
- 「探す」対応
心拍センサーは、Apple Watchほどの本格派ではない。ただ、ウォーキング中にサッと確認できるのは素直に便利で、「わざわざ別のデバイスを着ける」という手間が一つ減る。
補聴サポート系の機能は、今すぐ使う予定はない。それでも「将来の聴力の変化に備えている」という安心材料として、頭の片隅に置いておける。この手の機能は、必要になったときに初めて価値がわかるタイプだと思う。
「探す」対応も、地味だけど効く。ケースごとどこかに置き忘れる人間にとっては、保険としての意味がある。
外音取り込みが「自然すぎる」という問題
ノイキャンと同じくらい印象的だったのが、外音取り込みモードの自然さだった。
わかりやすいのが買い物の場面。コンビニやスーパーのレジで、イヤホンを外さずに会計を済ませられる場面が何度もあった。店員さんとのやり取りにも支障がない。「外すのが面倒だから会計だけ我慢する」みたいな小さなストレスが、そもそも発生しない。
外の音が「機械を通した音」に聞こえないのが大きい。以前のイヤホンだと、外音取り込みにした瞬間に音がシャリシャリして、結局外したほうが早い、という結論になっていた。今回はそれがない。
結果として、移動中はノイキャン、アナウンス確認や買い物中は外音取り込み、というふうに状況で切り替えながら、一日中着けっぱなしで過ごせる日が増えた。
地味な話だけど、2ヶ月使ってみてこれが一番効いていると感じる。イヤホンを外してポケットにしまって、また取り出して着ける——その一連の動作が、一日に何度も発生していたことに、なくなって初めて気づいた。
接続の「考えなくていい」感が、想像以上に効く
スペック表に載らないけれど、実際に一番満足度に効いているのがここだった。
ケースを開ければ繋がる。iPhoneで動画を見ていて、そのままMacで作業を始めれば、音は勝手についてくる。iPadで調べ物をしても同じ。「今どの機器に繋がっているんだっけ」と確認する動作が、この2ヶ月でほぼ消えた。
浮気していた時期は、この切り替えのたびに設定画面を開いて、ペアリング一覧から選び直していた。時間にすれば10秒程度。けれどその10秒は、集中の流れを一度切る10秒でもある。
純正の強みは音質ではなく、この「考えなくていい」の部分に集約されていると思う。同じApple製品で固めている人ほど恩恵が大きいので、逆にAndroidメインの人が買うと、評価はかなり変わるはずだ。
装着感と、着けっぱなしの現実
耳への収まりは良い。イヤーチップのサイズが複数付属していて、自分の耳に合うものを選べば、歩いても軽く走っても落ちる気配はなかった。
ただ、正直に書いておくと、長時間の連続装着で耳が疲れないわけではない。4時間、5時間と着けっぱなしにしていると、耳の中に何かが入っている感覚がじわじわ主張してくる。カナル型である以上、これは仕方のない部分だと思う。
自分の場合は、作業の合間に一度外して数分休ませる、というリズムに落ち着いた。それでも以前より装着時間は明らかに増えている。着脱が面倒じゃないからこそ、気軽に外して、気軽に戻せる。
通話と空間オーディオについても少し
オンライン会議で使ってみた印象としては、通話品質は必要十分。相手から「聞き取りにくい」と言われたことは2ヶ月で一度もなかった。自分の声がこもらないので、そのまま会議に出られる。
ただし、静かな部屋で専用マイクを使ったときのクリアさには及ばない。重要なプレゼンや録音を伴う場面なら、素直に別のマイクを用意したほうがいいと思う。日常の打ち合わせなら、これで何の問題もない。
空間オーディオは、映画やライブ映像を観るときにはっきり効く。音が頭の中ではなく、少し前方の空間で鳴っている感覚になる。一方で、普通に音楽を聴くだけなら好みが分かれるところで、自分はオフにしていることのほうが多い。「常時使う機能」ではなく「ここぞという時の機能」として捉えるのが現実的だと思う。
音質は「クセがない」、バッテリーは「油断できない」
音質について
低音から高音までバランス良く鳴る、いわゆる優等生タイプ。
強烈な重低音や派手な個性を求める人には、物足りないかもしれない。「おっ」と声が出るような瞬間は、正直なところ少ない。
ただ、長時間の作業や移動で聴き続けても疲れにくいのは、この味付けの薄さのおかげだと思っている。個性のある音は最初の30分は楽しいけれど、3時間となると話が変わってくる。毎日何時間も着けるものとして考えると、この方向性は正解なのだろう。
ポッドキャストや動画の音声も聞き取りやすい。音楽専用機ではなく「耳に着ける汎用デバイス」として見ると、このバランスは納得できる。
バッテリーについて
出かけて作業して、くらいの使い方なら1日普通に持つ。
ただし、ノイキャンを常時オン+オンライン会議+動画視聴、という日は、夕方にケースの残量が気になり始める。「まだ大丈夫だろう」と思っていると、夜に静かに切れる。
USB-Cで充電はしやすいので、机に戻ったらケースごと挿す、くらいのこまめな習慣を作っておくのが無難だと思う。バッテリーが弱いというより、「使いすぎる設計になっている」というほうが近いかもしれない。
2ヶ月で、生活のほうが少し変わった
製品レビューとしては余談になるけれど、使い始めてから自分の行動が変わった部分がある。
まず、出かけるときにポッドキャストを聴く時間が明確に増えた。以前は「イヤホンを出して着けて接続して」という工程が面倒で、短い移動なら結局何も聴かずに終わっていた。その工程が消えた結果、10分の移動でも普通に聴くようになった。
次に、カフェで作業する頻度が上がった。ノイキャンがあるという前提で場所を選べるので、「静かな席が空いているか」を気にする必要が減った。行動の選択肢が増えるという意味では、これはイヤホンの性能というより生活の自由度の話に近い。
道具にお金を払うというのは、本来こういうことなのかもしれない。音が良くなったという実感より、生活の摩擦が減ったという実感のほうが、結果として長く残っている。
ケースはAmazonでRingkeのマグネットタイプを追加購入した
本体とは別に、ケースはAmazonで【Ringke】のAirPods Pro 第3世代対応「オニキスマグネット」(ウォームグレー)を買い足した。
純正ケースはそのままだとツルツルしていて、カバンの中で他の荷物と擦れて細かい傷が増えていくのが気になっていた。Ringkeのケースはマグネット内蔵タイプで、バッグの中の金具や車のダッシュボードなど、マグネット対応の場所にペタッと着けておけるのが便利だった。出先で「ケースをどこに置いたか一瞬わからなくなる」というちょっとしたストレスが減った。
ウォームグレーの色味も主張しすぎず、AirPods Pro本体の質感を邪魔しない。表面にうっすらとした質感があって、素手で持ったときの滑りにくさも純正ケースよりは上だと感じている。
充電端子やカメラ(?)部分の開口は正確で、USB-C充電やケースを開ける動作に支障はなかった。マグネットの磁力もそれなりにしっかりしていて、簡単には剥がれない一方、外したいときにはスッと外せる強さに調整されている印象。
値段も本体に比べればかなり手頃なので、「本体は高かったけど、ケースまで凝るのは気が引ける」という人にはちょうどいい選択肢だと思う。

こんな人に向いている
2ヶ月使った上で、おすすめできる人を挙げるとこうなる。
- iPhoneを日常的に使っている人
- 電車での移動やカフェ作業で、周囲の音を抑えたい人
- イヤホンの着脱・接続の手間を減らしたい人
- 音質より「使い勝手の安定感」を優先したい人
逆に、強い個性の音や重低音を求めているなら、同じ価格帯の専門オーディオメーカー製のほうが満足度は高いかもしれない。同じ4万円でも、そちらに振り切った製品はいくらでもある。
「音楽に没入したいのか」「生活を快適にしたいのか」。 ここで選ぶべきものは変わってくる。
まとめ:4万円は高い。でも、面倒が消える価値はある
2ヶ月使ってみて、AirPods Pro 3は派手な感動をくれる製品ではなかった。
初めて聴いた瞬間に「これはすごい」と唸るタイプではない。たぶん、店頭で数分試聴しただけでは、この製品の良さはほとんど伝わらないと思う。
それでも、日々の小さなストレス——着脱、接続の手間、周囲の音——を確実に減らしてくれる道具だった。良さがわかるまでに時間がかかるタイプの製品だ。
4万円は決して安くない。財布を開くたびにその数字を思い出す程度には高い。
それでも、お出かけや作業、買い物の場面で「着脱の手間なく着けっぱなしでいられる」という価値を考えると、値段に見合っていると今は感じている。
感動ではなく、日常から摩擦が消える買い物。そういう製品を探している人には、素直におすすめできる。


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